私が最初の住宅を買ったのは、1985(昭和60)年。市況はちょうど水を打ったような状態で、その後なんとなく不動産価格が上がり始めた頃だった。その頃、転職して住宅販売の会社に勤めていたのだが、まわりの同僚に家を持っている人は誰もいなかった。不動産を売っている商売なのに自分たちが買っていないのだ。こっちは計算して明らかに得だから買ったのだが、家を買うなんてバカだ、ローンなんて抱えられないぞとみんなから言われた。ある人は真剣に「もうすぐ富士山が爆発するんだぞ」と忠告してきた。当時は、10年前に世間を騒がせた「ノストラダムスの大予言」をまだ信じている人が多く、まことしやかに富士山爆発説が流れていたのだ。ご承知のように20年以上経つが爆発しない。今では笑い話だが、当時は本当にそんな理由で誰も家を買っていなかった。こうして買ったマンションは、980万円の4Kタイプ、52平米の物件だ。某大手企業が社員向けに分譲したマンションで、外見は社宅のような建物だったが、中は本当にひどい状態だった。売り主には子どもが5人もいて、揚げ物をたくさんしていたのか、家中油まみれで生活臭もひどい。そのままではもちろん住めないが、南傾斜の高台に建ち、海が見え、遠くに房総半島が望めるという立地が気に入って購入した。そこで300万円くらいかけてリフォームして、間取りも大幅に変更し、リビング22畳と寝室の1LDKにした。海が見える広いリビングはとても快適で、毎晩のように友達を呼んでパーティーをしたものだ。評判もとてもよく、そのマンションに空きが出ると、友達がどんどん購入して移り住んできたほどだった。売りに出したときは、最初に案内されて来た奥さんが、すっかり気に入ってしまった。「買いますから、他の人に売らないでください」とそのまま帰らず、来る人来る人に、「私が買おうと思ってますから」と断り、結局その人が買ってくれた。住宅の付加価値は重要だが、たったひとりに気に入ってもらえばいいわけだ。自分が「こういう生活ができたらいいな」と造った住宅には誰か必ず入る。価値を認めてくれる人がいれば、住宅は売れる、ということをこのとき実感した。